ロックマンエグゼ小説
ビスケット・EXEさん作
第10話 現実の分れ目
「うっ・・・・・。」
ようやく炎山は目を覚ました。
「炎山様、大丈夫ですか?」
PETからブルースが写る。画面は少し乱れている。
「あぁ・・・・。大丈夫だ。しかし、ここはどこなんだ?」
炎山はゆっくり体を起こすと、あたりを見回した。どうやらここは森らしい。
「!!・・・・・・・え、炎山様がなぜここに・・・・・?」
そう言われて炎山はちらっと横を向くと・・・。そこには紅蓮のアーマーを持つナビが一人・・・。
「!・・・な、なぜおまえがそこにいるのだ!!」
あまりに驚いたので思わず後ろにあったに木に炎山は頭をぶつけた。炎山と同様にブルースもかなり驚いたらしい・・・当たり前だが。
「で、多分、時空の乱れだと思うが・・・。その前に俺達の前に現れたあの暗闇の影は・・・?」
「私にも全くわかりません、炎山様。」
PET画面にはブルースが写っているが画面の端にはPETを見ている自分の姿がある・・・。これは炎山にはどうにも理解しがたい状況だった。とりあえず、自分の隣りにいるブルースに妙な違和感を感じながら森の中を進んでいった。
「ふむ、どうやらここは『ラサの森』と言うらしいな。先程看板に書いてあった。」
さっき道に倒れかけていた看板をすくい上げ書いてあった内容を口に出した。ブルースも聞いたことがありません、見たいな顔をしている。いや、もともと表情など無いのだが。
「そうだな・・・俺も聞いたことが無いのだ。おそらく・・・どこかの別次元・・・・・ッ!」
炎山の会話は途中で遮られた。目の前に黒く光った何かが通り過ぎたからだ。炎山とブルースは辺りを見回した。
「だ、誰だ!バトルなら遠慮しなくともやってやるぞ!」
炎山はそう言って声を荒げたが何も返事は返ってこなかった。お互い、何もしないまま時間は過ぎていく。警戒しているのだ。しばらく沈黙が続く・・・。そして突然その沈黙の時間は相手によって破られる。
「ふっ、そんな警戒はしないでくれたまえ。私はただ、君を事情聴取しただけなのだから。」
右腕は銀色のバスターを装備しているナビが木の上から姿をあらわした。
「私はここの守護者。つい最近、ここを守っているバリアが何者かによって破壊されてね。今、その犯人を探している所なのだ。君は知らないかい?」
バリアといえば・・・とブルースが話し出した瞬間、炎山はブルースの口を手で塞いだ。あまりに不自然な行動だが・・・。そう、『バリア』と言えば祐一郎達の作った『リヒト・クール』が頭に浮かぶ・・・。
「い、いや、知らないが・・・。そいつらを見つけてどうするつもりなのだ?」
とりあえず一通り誤魔化そうと考え、とっさに話題を変えた。
「もちろん、向こうの世界へ帰すつもりさ。抵抗するのなら罰するまでだけれどね・・・。」
炎山はこのとき熱斗達にこいつに抵抗するな!といいたい気持ちでいっぱいだった。
「そ、そうか・・・。ところでなぜ俺はこの世界にいる事ができるんだ?なぜ俺はこんな所にいるのか?」
とりあえず、今持っている疑問を全て投げかける。
「そうだなぁ・・・。多分、君は『影の闇』に吸い込まれたのだろう・・・。」
「影の闇・・・・・だと?」
『影の闇』は先程、炎山の前に現れた黒い穴のこと。磁界の乱れにより最近、被害にあっているものも少なくないそうだ。なるほどっと炎山は納得すると同時に最大の疑問を投げつけた。
「なぜ!俺はこんなところにいるのだ!?」
顔を真っ赤にしながら問う。ブルースは横で冷や汗を垂らしながら炎山の方を見ている。
「まぁまぁ、落ち着いて。多分、君はそのナビとシンクロしたためと思われる。以前はこんなことはなかったのだがバリアを壊されてからね。あらゆる以上が起きるようになったんだ。『影の闇』も多分、その影響だ。」
「シ、シンクロだと?ならば俺達は一心同体になるはずではないのか?」
「さぁ、そこまではわからないな。多分、シンクロ以外にもこの世界に吸い込まれたという説もある。」
そうかと炎山は力を入れていた拳を解いた。吸い込まれたというのなら一理ある。現に炎山は『影の闇』によって吸い込まれたのだから。
「あっ、言い忘れたが私の名はアーク。犯人探しに協力して欲しいがなにしろハプニングだ。普通は罰するのだがここは私に免じて良しとしよう。それまではゆっくり街などを観光していると良い。ではまた会おう!」
そう言うとアークは空間に穴を空けて移動してしまった。取り残された炎山達はただ呆然としているだけだった・・・。
一方、熱斗達はと言うとフリーズと別れて街を越えてアウトルッキ-山へ向かっていた。
「・・・・・・・なぁ・・・・・。」
「・・・・・・なぁに?・・・・・」
「なんで俺はここにいるんだ?」
「知らないよ・・・・。僕が聞きたいよ・・・・。」
予感的中。ロックマン達もシンクロ?して熱斗だけがこっちにきてしまった。一度、こういう場合があったので炎山なみには驚かないが。
「と、とにかく!こっちでも俺がサポートするからよろしくな!多分、チップは送れると思うし!」
「う、うん!よろしくね!熱斗君。」
どこかの誰かさんとは違い、すぐに熱斗は状態を判断した。熱斗にしてはさぞ珍しいことである。
「でもなぁ・・・・。これもパパの力なんだろ?めちゃめちゃ凄くねぇ?!」
「う、うん。そうだね〜。『リヒト・クール』で磁界を乱してから入るって普通の人は考えないよ。」
やはりロックマンと一緒に歩く熱斗達も微妙。しかし、そこまでやった祐一郎も凄いが。
「でもなぁ、いまいち磁界を乱すのと俺をこっちに連れてくるってつじつまが合わないような・・・。」
「た、確かに・・・。でもこの仮想世界は昔から出来ていてそれが見つからなかっただけなんだって。」
仮想世界−今、熱斗達がいる世界のことだ。風景は限りなく現実世界(熱斗達、つまり人間がいる世界のこと)に似ていてそれでかつ、ナビも人間も一緒に住めるというものだった。
「・・・・!・・・熱斗君!下がって!」
ロックマンが熱斗を後ろに引き寄せてかばう。すると上からなにやら巨大なものが落ちてきた。ウィルスだ。
「熱斗君!オペ、よろしく!」
「任せとけ!」
思い切り後ろに下がりオペの準備をする。PET画面を見て、チップを送信する。ロックマンはそのチップを受信し、ウィルスに向かって攻撃した。
「グォ?」
あまりにデカイせいかあまり効いてない様にも見える。だがステータスは表示された。
Name:ハウバウンド 属性:無 弱点:なし
説明:山岳に出現するどでかいウィルス。鈍いのかHPが高いのか、なかなか倒すことが出来ない。
「で、でけぇ〜・・・。」
「関心してる場合じゃないって!早く!」
ロックマンはバスターを構える。当然、バスターも全然通用しない。
「ロック!『ナイトソード』送ったぜ!この攻撃力なら相手も気付くだろう!」
「OK。任せて!」
腕に薄黒く光るソードが装着されるとロックマンはハウバウンドを斬りつける。しかし。
「グォ?」
「き、効いてねぇ・・・!」
「ヤ、ヤバイよ!」
ロックマンの攻撃は効かないがこちらの防戦一方って言うわけでもない。
「グォグォグォ〜♪」
ハウバウンドは急に踊りだし、そのどでかい巨体を震わせた。
「うぇ!?」
マグニチュード7.5はあるだろう地震はロックマンと熱斗を動けなくさせた。地面には次第にひびが生じる。
「や・・や・・・ヤヴァイィィィ〜・・・!」
熱斗は声を震わせながら言った。どうやら地面のひび割れに気付いたらしい。途端、地面が砕ける。
「「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」」
二人は仲良く崖から落ちていった・・・。
「ふぅ、全くここは森ばかりか・・・。」
炎山はいつにもなく疲れていた。森の中を歩いてから早3時間は立つのだから。ブルースも相当疲れがたまっていた。
「しかし、アークというやつ・・・。かなりの腕の持ち主だぞ・・・。」
「私もいままで会ったやつとは訳が違うようにも思えてきました。」
ふと足を止め、炎山は腕を組み、瞑想を始めた。瞑想を始めてから2分後、どこからともなく悲鳴が聞こえてくる。炎山はすっと立ち上がり辺りを見回した。
「・・・・・・。」
何処からも声の居場所がつかめない。炎山が、ふと上を向いた瞬間・・・。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「・・・・・ッ!! のわぁぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!」
ズド〜・・・・・・ンという音とともに炎山は何処かへ吹っ飛んだ・・・。
「・・・・で、どういうことなんだ?光?」
先程落ちてきたのは熱斗とロックマンであった。幸い、木などにぶつかり落下スピードは弱まったので炎山は背中に打撲ができた程度だったが、もしここは野原や荒地だったとしたら完璧に熱斗達は殺人になっていたところだった・・・。
「いや、なんか知らんけど俺がこっちに来ちゃってそれでウィルスに落とされて・・・」
「もう良い。お前と話すと時間の無駄だ。」
「なんだとぉ〜?!」
炎山の冷たい一言に思わずケンカ腰になってしまう。
「仕方ない。歩きながら話すか。ここで話しててもらちがあかないからな。」
それには熱斗も同意し、森を抜ける為に適当なことを歩くことにした。辺りは森ばかりだ。ロックマンは何気なくその辺りの樹を見回していた。途端、目の前にある樹が音を立てて揺れた。
「危ない!」
ロックマンは熱斗を、ブルースは炎山をかばう。熱斗達がいたところには大きな手裏剣が地面にふかぶかと刺さっていた。
「よく避けたな、おぬし等。」
「げ、お前は確か・・・フウマ・・・。」
現れた敵は以前、フォルダシティーでロックマン達を襲ったフウマであった。フウマは樹木の枝に止まり、まるで高みの見物でもしているようだ。
「フフフ・・・。貴様らにはここで死んでもらう!」
フウマは枝からいきよいよく飛び降りるとロックマンにめがけて手裏剣を放った。ロックマンはそれを容易く避けるとカウンターにバスターを打つ。
フウマもバスターを回避する。ブルースは後ろから素早い攻撃でフウマの左脇をソードで貫いた。刺さったと思ったのだが実際刺したのは目の前にある木で本物のフウマはまた樹木の枝に止まっていた。
「『変わり身の術』・・・か。」
「フフ、さよう。おぬし等もなかなかやりおる。」
「やいやい!なんで俺達をつけまわすんだよ!」
熱斗はフウマに食って掛かった。
「・・・私ノ兄、シャドーマンのかたきを討つためだ!」
「何ィ!?」
そう、フウマは前回、ロックマン達に倒されたシャドーマンの弟なのだ。
「・・・お前たちは私ノ兄を殺した!絶対に許さない!!」
フウマは風とともに消えると次の瞬間、ロックマンの右肩を貫いていた。
ロックマン HP 720/800
「ぐぅ!」
「兄の痛みはこのままではすまされないぞ!」
今度は標的をブルースに変える。しかし、ブルースとて素早い動きの持ち主。フウマの高速移動を目に追えないはずが無かった。
剣と剣がぶつかり合う。フウマの刀とブルースのソードが火花を放っている。しばやく睨み合うとばっと互い、後列に下がった。
「我がかたきの邪魔をするな!」
「それはこちらの台詞だ。こいつは俺が倒すんだ。」
お互い離れても睨み合いは続く。ロックマンはこの二人の戦いに水を指すことが出来なかったために離れたところで傍観している。
「ハァァァァ・・・・!!!」
「オォォォォ・・・・・!!!」
ガキィィン!という人一倍大きい音がしたと思うとその後は恐ろしいほど静かになった。
「ハァハァ・・・。くっ、殺すなら殺せ・・・!」
「ハァハァ・・・。」
「どうした!?早く殺せ!」
勝敗はブルースに上がった。フウマは急所を突かれて身動きが取れない状態になった。
「この腰抜けが!早く殺せと言っているだろう・・・!!」
「私が判断を下すのではない。炎山様が判断を下すのだ。」
そう言ってブルースは炎山を見て「どうしますか?」と言った。
「・・・そんなやつをデリートしたって意味は無い・・・逃がせ。」
「はっ!」
ブルースは剣をおさめる。しかしフウマはその場を動こうとしなかった。
「なぜだ・・・。なぜ私を殺さない・・・!!」
フウマが悔しそうに地面を叩く。そのフウマの問いに変わりに熱斗が答えた。
「・・・むやみに殺したって後に残るのは罪悪感だけだ・・・。」
「・・・あまちゃんどもメ!・・・。」
途端、フウマの胸が光を放った。するとフウマの手に一通の手紙が載せられた。それは今は無き、シャドーマンからの手紙だった。
元気にしているか?フウマ。私は今、とても嬉しい。なにせ私を超えるやつが現れたのだからな。お前にはまだわからないと思うが私は長年、強きものを探していた。ついに探した。ロックマンと言う男だ。私はロックマンに敗れるだろう。運命とは皮肉なものだ、だがこれで良いのだ。お前がロックマンに会うようなことがあった場合は奴に力を貸してほしい。これが俺の最後の願い事だ、じゃあな。また会おう。
シャドーマン
「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・!」
フウマはその場に膝をついて倒れた。
「クソォ、俺は何をしていたのだ!この伝言をもっと早く見ていれば・・・!!」
「伝言の通りだ。俺はお前たちについていく。嫌だといってもついていくからな!」
「わかってる。これほど心強い味方はいないよ!」
ロックマンはそう言うと片手をフウマに向けて差し出した。いわゆる『握手』と言うやつだ。
「なるほど、結束の印か・・・。」
そのとき、フウマは感じたロックマンの手のぬくもりを。意外なほどに温かかったということを。
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